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Interview

AI出品、画像検索… CEO 山田進太郎・Director 木村俊也が振り返る、メルカリのAI活用の歩み

メルカリでは2017年〜2018年の間に「AI出品」「おすすめタイムライン」「画像検索」など、AI技術を搭載した様々な機能をリリースしました。これらは今でもメルカリのコア機能となっています。

では、その過程に何があったのか?メルカリがAI活用を積極的に進めた背景、当時の課題や組織変化について、代表取締役社長 CEOの山田進太郎と、Director of AI&Searchの木村俊也が振り返ります。

メルカリにはもともとデータドリブンな意思決定の土壌があった

木村俊也 Director of AI&Search

木村俊也(以下、木村):メルカリではこれまでもAIの活用に力をいれてきましたが、進太郎さんとしてはいつからAIを力をいれていくぞ、というスイッチが入ったんでしょうか。

山田進太郎(以下、山田):メルカリはもともとゲーム開発をしていたメンバーが多く参加している会社でした。僕もZyngaという会社にいましたし、特にメルカリ創業当時はディー・エヌ・エーやミクシィから入社したメンバーも多くいて。ガラケーのゲームサービスをつくっていた時代から、スマホ文化に移行しても、引き続きデータを用いる重要性はみんなが感じていたんですよね。だからA/Bテストを行って、データドリブンな意思決定・プロダクト開発を行ってきました。

木村:進太郎さん自身の原体験からの影響もあるのでしょうか?

山田:Zyngaにいたころ、システム開発を進めるうえで、ボタンの色の選定や新しいゲームシステムの試行などにA/Bテストを積極的に活用していました。PDCAをまわすことでお客さまのリテンションが向上したり、売上も上がるなど、ビジネス上のインパクトを実感していました。メルカリをリリースした2013年当時は、まだBigQueryもなかったのですが、データエンハンスメントは最初から行っていましたね。それらのシステムを活用して、より付加価値が高いデータの活用法が見えてきて、その中にAIと機械学習(マシンラーニング)もありました。

木村:それはいつ頃の出来事ですか?

山田:AIの中でもディープラーニングの積極的な活用が世の中に広く認知され始めたのは2015〜2016年頃だったと記憶しています。自分たちもAIを使って色々な機能を開発できるのでは?と考え、開発を開始し、2017年にはAI出品など、機械学習を取り入れたプロダクト開発を開始しました。

AI活用が進んだきっかけは、中国企業のデータ活用を目の当たりにしたこと

木村:進太郎さん自身が、個人的にAIの力を感じ、積極的にAI利活用を進めたいと考えられたのは何かきっかけなどもあったんでしょうか。
山田:社内の動きを振り返ると今お話ししたような流れですが、個人的には、中国で様々なサービスがAIを活用していたことが強く印象に残っています。当時はメルペイの立ち上げ期で、中国に限らず、色々な国のFinTechサービスのリサーチに行くメンバーが多く、社内で数多くレポートあがってきていました。2017年の夏には、私も入社前の青柳(青柳直樹・メルペイ代表取締役 CEO 兼 株式会社メルコイン代表取締役 CEO)と中国を訪れました。


山田進太郎 メルカリ代表取締役CEO(社長)

その後、日本でもTikTokで有名になるByteDanceでは、头条(トウティアオ)というディープラーニングを活用してパーソナライズされたニュースサービスを展開していました。日本だとSmartNewsに似たサービスですね。美団(メイタン)は食べログのようなグルメサイト、大衆点評(ダージョンディエンピン)を展開し、その後は食品デリバリー、さらにライドシェアへ進出。どちらもAI活用が進んでいました。百度(バイドゥ)による検索サービスもすごかったですね。

彼らに共通していたのは、利用者のデータを集め、そのデータをビジネスストラテジーの中心に据え、どう活用できるか、何ができるか考えてサービスを展開していた点です。美団(メイタン)の場合、食品デリバリーのバイクの走行データなどを用いて、ライドシェアに参入したところでした。

当時見た中国で勢いのある会社が、優れたデータ活用を行っている、データカンパニーだったことで「こうするといろんな事業展開ができるんだ」という実感を持てました。WeChatPayやAlipayなどを見ても、この先に新しい金融の形ができるのでは、と。

木村:たしかに、2017年当時の中国企業のデータ活用は衝撃がありましたよね。

「おすすめタイムライン」「AI出品」メルカリのコア機能の実装を開始

木村:メルカリでのAI活用はまず、「AI出品」という機能が開発されました。これは写真を撮影すると、商品の情報のサジェストし、さらには値段の推定までも行ってくれる機能です。世の中にインパクトを与え、今でもこの機能がメルカリのいいところだという声もあるほど、便利な機能だと感じています。進太郎さんは当時どう感じられたのでしょうか。

山田:まず単純に「AIってここまで来ているんだな」と感じました。商品を携帯で撮影し、商品やブランドの識別、さらに値段の推定まで行うものでした。機能の概要を聞いた時は、正直そこまでの精度は出ないだろうと思っていた自分がいました。しかしプロダクト側の提案を受けて実装を進め、実際の機能を触ってみたところ、想定以上に精度が高く出ており、本当に驚きました。画像認識の技術をきちんと実装し、メルカリにマッチする形で機能に落とし込む。実際に、出品画面が表示されてから、出品完了するまでの出品完了率も明確に向上しましたね。この一連の経験を経て、これからにさらに技術投資の必要性を感じました。

AI出品機能の紹介動画

その後は、タイムラインに表示される商品の並び順をパーソナライズする「おすすめタイムライン」の実装を行いましたよね。当時メルカリはタイムラインはすべての商品カテゴリを新着順で表示するだけだったんですが、お客さまの閲覧履歴から興味のあるジャンルを推定して、タイムラインに出す機能をリリースしました。この機能は非常に効果があり、総取引金額の面でも大きなインパクトがありました。

木村:自分が買いたいと思えるモノの一歩先、あるいは斜め先のようなサジェストをしてくれるのがAIの醍醐味ですよね。

山田:AIの良いところは、人間によるルールベースの表示順を構成するわけではなく、様々なデータを扱って処理を行い、適切なアウトプットを自動で導くことができる点だと考えています。どのセグメントのお客さまに対して、どのカテゴリの数字を変えるのか。反応が優れない時にはどう調整するのか。そうした複雑なオートメーションを行えるのが、AIの優れた点です。头条(トウティアオ)や美団(メイタン)がやってきた、パーソナライズサービスにもアイディアを受けています。

急拡大する組織ではあえて足並みは揃えず、必要な時にシナジーを生む

山田:木村さんが入社された当時、組織面はどんな状況でしたか?

木村:僕が入社した2017年7月、当時はエンジニア今ほど多くありませんでした。まだAIチームもなかったですね。AIを活用した開発は、現在はMLエンジニアとして活躍していますが、以前はバックエンドエンジニアが開発を担当していました。AIチームができたのは2018年初頭だったと記憶しています。違反検知やAI出品・写真検索・プライスサジェスチョンや、US版メルカリの重量推定や配送方法推薦といったさまざまなプロジェクトにAIエンジニアがアサインされていました。

当時メルペイもできたりと、組織としては大きくなりつつも、同時にプロジェクトは細分化していました。MLエンジニアも、メルペイやUS版メルカリといった各組織に所属が分かれていきました。そうした中で、AI開発の足並みをあえて揃えず、各組織で開発を進めていきました。連携を密にするあまり、開発が遅くなるよりも、それぞれの組織が独立して開発を進めつつ、ゆるくつながる。スピードを重視しつつ、必要な場面でシナジーを生む。メルカリのサービスが多様化・グローバル化する状況の中で、それぞれの組織がAIを活用した開発を行うこの状況は非常に面白いなと思っています。

AI活用を進める上で大きな課題となった、データ整備のプロジェクトとは

山田:当時から考えるとかなり人も増えましたよね。今は数百人というエンジニアが所属しています。A/Bテストの枠がいっぱいになってしまい、コンフリクトしはじめてしまった時期もありました。その頃から、A/Bテストの自動化は必須だなと課題に感じていたんです。また、そのフェーズに至るまでにデータ取得の仕組みが整理されていることは、極めて大事だなと感じました。

2019年当時、メルカリはすでに、多くのお客さまに使っていただいているサービスに成長していたのですが、 データの取得方法が統一されていなかったり、データの保存箇所がばらばらであったり、といった課題がありました。その後、データ取得体制を刷新するためのプロジェクトを開始しましたよね。

木村:きちんとしたデータ基盤の整備は2019年頃に初めて取り組みましたね。背景として、データドリブンな意思決定を促進したり、AI開発の期待値が高まっていたことから、データの正確性や即時性を高める必要性が全社的にも高まっていた。AI活用やデータドリブンな意思決定を強化するためにも、現状メルカリの取得しているデータの構造や取得方法を再整備する必要が生まれたのです。

当時は、分析の柔軟性を重視していたために、データの保存がかなり自由で簡単にできる仕組みでした。そのため、大量なデータがデータベースに保存されるようになって、データのメンテナンスやマネージメントが徐々に困難になってきたのです。データマネジメントについても議論が起こっており、リーガル観点、エンジニア観点、アナリティクス観点でそれぞれのステークホルダーに独自の意見がある。そんな中でメルペイの開発も開始し、状況はかなり複雑化していきました。

これは現在でも全社的に取り組む必要がある=ステークホルダーも非常に多い課題です。次期メルカリジャパンCEOのJeffが取りまとめを行いって、実装を進め、全社的なコンセンサスを得て、その後はデータの取得法や保存方法が統一され、かつリアルタイムにデータを保存ができる、より堅牢性が高いデータプラットフォームとなりました。さらに現在はデータガバナンスも整えるプロジェクトが全社的にも進んでいます。

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Photo : Shun Nakayama (Web/Twitter)
Text : Ayumi Iga (Twitter)

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