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Interview

メルカリは生成AI/LLMをどう活用するのか?掲げたミッションは「新たな顧客体験と事業インパクトの創造」と「全社の劇的な生産性の向上」

メルカリは、2023年5月に生成AI/LLMの専任チーム設立を発表。このチームを立ち上げ、主導するのは、ソウゾウ代表取締役CEOとしてメルカリShops事業を牽引してきた石川 佑樹(@maze)です。
メルカリはこれまで、UI/UXのみならず、マーケティングやカスタマーサポートなど、幅広い領域でAIを活用してきました。今後、「メルカリのAI活用の1つの柱になる」と捉え、石川自らが経営会議にてチームの立ち上げを提案した生成AI/LLMチーム。この技術への思い、3ヶ月の取り組みの中で見えてきたもの、チームとしての中長期的な展望について聞きました。

プロフィール

石川 佑樹 | 株式会社メルカリ 執行役員 VP of Generative AI / LLM

東京大学卒業後、2012年任天堂株式会社入社。2014年にモイ株式会社(ツイキャス)に入社し、各種開発や新規立ち上げに従事。2017年6月メルカリグループの株式会社ソウゾウ(旧)に入社。その後、株式会社メルカリへ異動を経て、2020年7月より株式会社メルペイ執行役員VP of Product。2021年1月から株式会社ソウゾウ代表取締役CEO。2022年7月から株式会社メルカリ執行役員VPを兼任。

「メルカリとして絶対にこの領域に取り組むべき」だと感じた


石川 佑樹 | 株式会社メルカリ 執行役員 VP of Generative AI / LLM

ーー2023年5月にメルカリの生成AI/LLM専門チームが設立されました。専任チームを立ち上げた背景と、目的について教えてください。

石川:生成AI/LLMの専任チームについては5月に正式にリリースを出しましたが、2023年の2月から構想を進めていました。2022年の夏頃のStableDiffusionや、2022年末のChatGPTの登場を受け、個人的に注目していました。色々と試していくうちに、メルカリの事業や社内業務として活用できそうなアイディアがたくさん思い浮かび、経営会議で「メルカリとして絶対にこの領域に取り組むべき」と提案したことが専任チーム設立のきっかけです。今年の春の時点では、生成AI領域に関しては不確実性が高い状況だったので、まずは機動的に動ける少人数の専任チームを作りました。

生成AI/LLMチームのミッションは、「①生成AIの技術を用いて、新たな顧客体験を創り、事業インパクトを最大化させる」、そして「②全社の生産性を劇的に向上させる」という2点です。


『MS Build Japan2023』での発表資料より

最初期は、フルスタックかつ、過去にMLのプロジェクトに関わっていたエンジニアにジョインしてもらいました。現在はエンジニアや、デザイナー、BizOpsのメンバーによって構成されています。引き続きエンジニア採用も進めています。

エンジニアの開発体験を向上する「GitHub Copilot」の導入

ーーAI/LLMチームの設立から数ヶ月が経ちました。これまでに取り組んだ具体的な施策について教えてください。

石川:まず、「全社の生産性を劇的に向上させる」というミッションに関連して、エンジニアの開発体験のための『GitHub Copilot』を導入しました。GitHub CopilotはAIが最適なコードを提案してくれる、プログラミングをサポートするツールです。コメントからコードを生成したり、記載途中のコードから続きを補完してくれたりと、開発体験を向上する支援ツールとして活用されています。GitHub Copilotによる開発生産性に関して、導入によってタスクの完了速度が約2倍早くなった、という公式の見解もあったりします。今後、導入企業とそうでない企業では大きな差が生まれうると考え、多数のエンジニアを擁する会社として、まず導入したかったツールでした。生成AI/LLMチームが旗振りをし、Corporate Engineerチームが主導してくれ、6月には希望するエンジニアが使用できるようになりました。

導入時の懸念として、3つのリスクがあることを整理しました。1点目が著作権侵害やオープンソースラインセンスの違反を含む法的なリスク、2点目が法的リスクに連なったレピュテーションリスク、最後が社内のコードがGitHub Copilotを通じて情報漏洩するリスクです。

それぞれの観点で検証を行った結果、一定の制限を設けることで、使用に関しては問題ないという結論になったため、今はメルカリのエンジニアは誰でも使用できるようになりました。導入後の具体的な検証はこれからですが、シニアなエンジニアからは「かなり楽ができるようになった」という声を聞き、比較的エンジニア歴が短い人からは「悩んだ時の教科書のように使えている」とフィードバックを受けています。専業プログラマーでない人でも、それなりに綺麗なコードが書けるため、開発に携わる広いメンバーに対してメリットがあるツールだと感じています。

自然な会話を通じて商品を探せる、新しいお客さま体験

ーー2023年7月には、ChatGPTのプラグイン導入も発表されていました。

石川:一般的にメルカリを含むECのサイトでは、お客さまがある程度欲しいものが頭にある状態でのキーワード検索や、検索履歴に基づくおすすめアイテム表示などが中心だと思います。

しかし、今回のプラグイン導入によって、ChatGPTとの対話によって商品を検索することが可能になりました。「初めてのキャンプに必要なものを教えて」「5歳の女の子が喜びそうなプレゼントは?」など、特定の商品を思いついていない状態でも、自然な会話を通じて商品を探せるため、これまでのお客さま体験とは異なる機能となっています。今後の検証結果によっては、メルカリアプリ本体への実装も考えています。

導入後、当初の想定よりも使われているな、というのが素直な感想です。現在、ChatGPTプラグインが使用できるのは有料版であるChatGPT Plusが使える方のみです。当該機能を使用しているユーザー層としては30〜40代の男性が多く、娘やパートナーへのギフトの相談、趣味の電化製品やカメラの絞り込みといった目的でよく利用されています。ガジェットや家電の複雑な機能に関して、自然な言語でアイテムを絞り込めるのはたしかにすごく便利ですよね。ChatGPTによるサジェストの結果、メルカリへの流入にも貢献しています。今後も引き続き、データを追っていきます。

生成AIのクリエイティブを、採用やマーケティングへ活用

ーーmazeさんのX(旧Twitter)にて、生成AIを活用したチームの採用クリエイティブがアップされていました。クリエイティブへの活用に関する展望があれば教えてください

石川:まずはテストとして、生成AI/LLMチームの採用のためのクリエイティブを生成し、私のXアカウントで数日間ポストしていました。これらの画像は、生成AIで作ったクリエイティブに、デザイナーが背景に合わせた文字入れをしています。今は少しだけ人の手が介在している状況ですが、今後はテキストの指示だけでも思い通りのクリエイティブ生成ができるようになると思います。

今後の展望としては、キャンペーンや、広告のクリエイティブへの生成AIの活用を検討しています。

具体的には、以前評判のよかったメルカリの広告のデータを踏まえた広告クリエイティブを生成し、デジタル広告やOOH(屋外広告)で活用できないか、取り組みを進めています。
現在(2023年10月3日時点)、渋谷駅の屋外広告にて、メルカリのハロウィン関連のCMを流しているのですが、こちらのプロモーション動画は実は生成AIによって作られたクリエイティブです。



渋谷のスクランブル交差点にて放映中のメルカリのCM

また、トレーディングカードのクリエイティブ生成に使えないか?という取り組みも進めています。著作権上、実在するカードの画像は広告に使えないのですが、トレーディングカードとわかるクリエイティブをAIで生成し、広告などに使用できないか検討しています。リーガル回りの整理も並行して進めており、こちらも近日のリリースを目指しています。

これからの半年は、成功と失敗を重ね、多くの挑戦をするフェーズ

ーー今後、生成AI/LLMチームとして、さらに挑戦していきたいことはありますか?

石川:これからの半年間は、生成AIを用いた体験でどのような体験がつくれるのか、どの程度のインパクトが出せるのか、あらゆる領域で試行錯誤していきます。

この半年においては「半分くらい失敗してもいいかな」くらいの気持ちで、なるべく広く・多くの取り組みに挑戦していくことが重要です。その結果、生成AI/LLMが上手くハマるところと、そうでないところが見えてくるのかなと。いくつかの施策をまとめ、評価レイヤー、プラットフォームレイヤー、そしてML Ops的な組織がどのように必要かどうか、見極めていく必要があると考えています。

自社サービスへの導入や、ビジネス上のインパクトを作ることはもちろん大事な指標ですが、私たちはメルカリ社内の技術理解を推進していくことも非常に大事なミッションだと捉えています。1年後の視点ですと、生成AI/LLMがメルカリの開発体験における、より中核技術として浸透していくべきです。UI/UXに関して出品・購入をなめらかにする観点などはもちろん、バックエンドのアルゴリズムまで含めて、生成AI/LLMが浸透している状態を目指しています。

ーーAI/LLMチームの今後の組織体制についても、展望があれば教えてください。

石川:引き続き、専任チームで機動的な技術探索・プロダクト開発を進めていきますが、中長期的に、メルカリのあらゆるメンバーが生成AI/LLMを活用できている状態にするべく、活動を進めていければと考えています。

今後、メルカリ内で生成AIのモデル自体の開発を進めていくかどうかということも併せて検討しています。社内だけの力に限らず、広く社外との連携も見据えていけたらと考えています。

メルカリの魅力は、豊富なデータ量を活用しながらダイレクトなフィードバックを得られること

ーー生成AI/LLMの可能性を探索する場として、メルカリの魅力があれば教えていただけますか

石川:メルカリで生成AI/LLMに取り組む魅力は2つあります。1つは豊富なデータがある会社であること。AIプロダクトはデータ量がモノを言う側面がありますが、その点、メルカリを通じて蓄積された大量のデータを扱うことができます。もう1つは、作ったシステムをディストリビューションした結果、ダイレクトなフィードバックをたくさん得られること。この2つは、AIを使ったサービスを開発する上で強い魅力だと感じています。

生成AIは、お客さまに関連する部分でできることもたくさんありますし、社内の生産性向上に関しても、今後、働き方レベルで大きな変化が訪れると考えています。メルカリは現在2000人超のメンバーを擁し、おしなべて社員のITリテラシーが高く、さまざまな取り組みを実験できる環境です。生成AI/LLMを使った業務設計・組織設計などを社内で検討し、どんどんPoCを進めていけると考えています。

実は、「全社の生産性を劇的に向上させる」というテーマは、私個人のたっての希望でミッションに追加しました。社内では技術的な試行錯誤をしやすく、チャレンジをしやすい環境です。また、メンバー自身の働く環境が変わることで、さらに生成AI/LLMを身近に捉えることができ、技術浸透が進むと考えています。

生成AI/LLMチームでは一緒に働くメンバーを募集中です!

メルカリの生成AI/LLMチームで働くことの面白さや、挑戦機会の多さを感じていただけたら嬉しいです。チームの募集詳細はこちらをご覧ください。
Software Engineer, Full Stack (LLM/GenAI) - Mercari

  • Photo : Shun Nakayama (Web / X)
  • Text : Ayumi Iga

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